「現実は自らと調和している。」これは近代科学の父と言われているアイザック・ニュートンが「複雑に見える様々な現象が、実はシンプルな法則でつながっており、美しく調和している」という意味で唱えた言葉です。
消費主義を主軸とした経済発展により世界は物的に充実した一方、社会の構造が複雑化し、自らの発展過程で発生したパンデミックにより、実体経済は未曾有の危機に陥りました。パンデミックにより、命を優先するのか、経済を優先するのか、私たちは強制的にその選択を迫られたと言えます。経済と社会的意義の両立を成すことは難しいことかもしれません。しかしながら、私たちはその両立を可能とする調和された答えを探し続けることはできます。
人口増加と生産年齢人口の増加に後押され、かつて100戸ほどの半農半漁の小さな村であった横浜は、人口378万人を超える都市にまで成長しました。しかし、人口増加が頭打ちになった今、横浜のさらなる発展には、交流人口の増加施策を推進する一方で、社会が経済を牽引する潮流を作る必要があります。
横浜市は、38の政策からなる中期4か年計画について2021年を節目に検証し、2022年には新たな政策を掲げます。2022年~2025年の4カ年計画の政策については、ゼロカーボンシティの実現や、人口統計に基づいた政策が基軸となることが予想されます。私たちは2022年を経済に関する政策を共有する契機と捉え、横浜市とともにまちの発展に向け、活動して参ります。
横浜は人口増加や経済発展に伴い、資源やエネルギーの需要、及び廃棄物や二酸化炭素の排出量が増加し、その削減はまちの重要な課題となっております。地球温暖化、異常気象などに代表される世界的な環境課題は、線形経済の限界を示しており、これからは、社会が経済を牽引する循環経済の推進が必要とされております。
横浜青年会議所としては循環経済を推進し、横浜が世界から注目される循環経済の先進都市となるよう、寄与致します。具体的には、循環経済を強烈に後押しする金融エコシステムの構築や、サーキュラーエコノミーの先進企業になりうる企業の創出、モデル事業を自ら構築し運動を起こして参ります。
調和を「トレードオンの総和」と定義します。トレードオンとは相対する目標を同時に達成させる選択、または、相対する課題を高い視座をもって解決することで、新たな価値を生むことと致します。何かを犠牲にして目標を達成するトレードオフとトレードオンは対義となる関係ではなく、トレードオンはトレードオフが進展した考えであると捉えるべきです。今、私たちが行っている経済活動の多くはトレードオフで成り立っており、自らがトレードオンの選択をしていかない限り、社会は変わることはありません。
横浜青年会議所が行うすべての事業において、トレードオフではなく、トレードオンとなる選択をすることで、その個々のトレードオンの総和が横浜青年会議所に調和をもたらします。そして、横浜青年会議所が社会にもたらす調和を、横浜から日本へ、日本から世界へ広げて参ります。
社会は今、強制的な負荷により変わることを迫られています。経済が主導であった社会から、社会が経済を導く時代に変わっていく好機である反面、社会の課題を見つけ出すことが難しくなります。また、課題への答えは現在の社会の延長線上にはなく、探し続けても見つからない可能性もあります。ただ、私たちは答えを探し続ける姿勢を保つことはできます。一人ひとりのその姿勢の総和こそが、見つからないと思われた答えに私たちを導くと確信しております。
循環経済がもたらすまちの調和
横浜は、長らく居住者の減少をインバウンドの需要拡大により補填する施策を講じてきました。一方で、これまで他地域に流出していた横浜の資本を、地域内で循環させることも重要です。これからは、環境省が提唱している地域循環共生圏を基に、横浜市内での資本・資源循環を促し、循環経済の先進都市の実現に向け事業を展開する必要があります。
現状、他地域に流出しているエネルギー消費に関する資本は、再生可能エネルギーの地産地消を行うことで、地域内で循環させることが可能になります。そして再生可能エネルギーの普及は、横浜市が推進する温暖化対策実行計画「Zero Carbon Yokohama」の実現に繋がります。さらに、私たちは地域内に留保される資本を循環させるファンドを構築することにより、循環経済先進都市としての礎を築いて参ります。
2020年5月、循環経済ビジョンを通し、経済産業省はサーキュラーエコノミーを推進すると発表しました。横浜市におけるSDGsの取り組みを更に発展させるためには、サーキュラーエコノミーの先進企業の創出や、モデル事業の構築が必要です。私たちはゼロエミッションの達成に向けたモデル事業を自ら構築・展開することで資源を循環させ、社会が優先される経済を発展させて参ります。
循環経済を推進する過程では、今まで存在しえなかった膨大な課題が顕在化することが予想されます。その山積した課題のなかからボトルネックを定め解決し、社会に調和をもたらすためには、利他の精神をもって向き合うことができるリーダーが必要となります。体系的に社会課題を定義する方法や、その解決方法を理解し、実体験することこそが、最大の学びの瞬間であり、私たちや次世代が経験すべきことと考えております。
循環経済を推進することは、横浜が循環経済の先進都市として世界の都市から注目されることにつながります。その取り組みを学ぶためにまちを訪れる短期移住者の増加は、横浜を更に豊かなまちに導きます。循環経済の波及は、社会が経済を牽引するなかで中心的な役割を果たし、新たな豊かさを横浜にもたらすと確信しております。
例年70万人近い方が来場される横浜開港祭は、2021年に40回目の開催を迎えました。横浜開港祭は横浜青年会議所において事業規模、予算ともに最大の事業であります。これまで先輩諸兄姉が規制緩和に挑戦し、横浜にインパクトを残してきた事業だからこそ、多くの方々に共感を頂き、今もなお事業が続いております。今後も多くのパートナーや市民の皆様とともに、横浜開港祭を創りあげていく必要があります。
横浜開港祭は”Thanks to the port”「開港を祝い、港に感謝しよう」をテーマに、第1回横浜国際デー“プレ横浜どんたく”から始まりました。横浜開港祭が今後も愛され続けるためには、市民に加え、環境、社会を思いやる企画を増やしていく必要があります。2050年のゼロカーボンシティの実現を目指す横浜市に先駆けて、開催に際して考えうる環境への影響(二酸化炭素の排出量や廃棄物)にも配慮して参ります。2022年の横浜開港祭は情勢的にも制約条件が緩和された状態での開催が想定されます。ゼロカーボン・ゼロウェイストを意識した世界から注目される市民祭を開催致します。
多くの方々が集まる横浜開港祭だからこそ、ご協賛いただく企業等の方々に対して訴求すべき価値を見出せます。その価値とは社会・環境課題への挑戦であり、横浜開港祭への協賛そのものが、ESGやSDGsへの取り組みとして評価されることです。常に民間主導で規制緩和を試み、まちづくりの中心的な役割を担い続けてきた横浜開港祭を開催することで、今後も横浜の発展に寄与していくと確信しております。
横浜青年会議所の定款第1章第3条にその目的は、「社会開発、指導力開発である」と定められております。これまでも私たちは、自らが大胆な政策を掲げ、その政策を実行して参りました。今後とも老いることのない組織を維持し、自らが政策を持ち、実行する団体として社会に変化を与え続ける必要があります。
組織の未来を担うのは当年度の新入会員に他なりません。そして会員となりうる方は、私たちの理念に共感していただけるすべての青年が対象となります。潜在的に入会を希望している方に情報を届けるため、DMやWEB広告等のマーケティング戦略を展開して参ります。また、これまでのパートナーシップだけでなく、他団体、他企業とも新たなパートナーシップを構築し、今年度は120人の新たなメンバーの入会を目指します。
そして、新入会員の皆様にも横浜青年会議所の目的を理解いただき、自らが共感を拡げていく存在になっていただきたいと考えております。共感を拡げていくために大事なのは、想いを伝えることであり、その想いこそ、リーダーシップにおける源泉です。想いを伝え、共感の連鎖を生み出し、横浜青年会議所でしか経験できない活動を通して、社会から本気で必要とされる団体であり続けられるよう、活動して参ります。
WEB配信による例会は、より広域に、より多くの方にメッセージを届けることが可能となりました。これを機に、例会のコンテンツ配信を、マーケティング戦略の一環として運用して参ります。また、共感の輪を拡げていくために、インパクトある多様なコンテンツを配信し、その社会的インパクトを検証することで、好循環を起こす新たな可能性を追求致します。
組織の次代を担う新入会員を迎え入れることは、組織の持続性を保つだけではなく、社会的インパクトの創出に直結します。同時に、全てのメンバーが社会課題を追求し、社会的インパクトを意識した活動を展開することが、理念の共感を生みます。そして、その理念の共感の好循環こそが、組織の発展につながると確信しております。
国際青年会議所、国家青年会議所、各地青年会議所とのパートナーシップは、今日まで横浜青年会議所が培ってきた渉外活動の成果です。今後も地域間交流を通して地域経済及び日本経済の発展をもたらし、国際連携を通して国際的理解と親善を促進することで、人類の幸福と平和に寄与していく必要があります。
横浜は全国の青年会議所が一堂に会するサマーコンファレンスの開催地として、1995年より日本青年会議所からご選択いただいております。2022年度は日本青年会議所がサマーコンファレンスを通し、広く運動を起こせるよう、横浜青年会議所としても運動のフェーズを合わせ、事業を展開致します。そして、サマーコンファレンスを通して築いてきた行政やパートナーとの連携を活かし、2022年度も横浜を開催地としてご選択いただくべく、活動を展開して参ります。
国内で行われる諸大会は、地域連携を促進する機会であり、国際会議は民間外交、経済交流そのものであります。姉妹JCの中には、国交が正常化されておらず、国家間の関係性が悪化する可能性のある時に姉妹締結している青年会議所もあります。国家間の対立があろうとも、経済交流を通して関係構築ができるのは、世界にいる私たちの仲間との関係があるからです。地域間、国家間においてボーダレスな関係を築き、今後も仲間との交流を通して、社会に、世界に運動を起こして参ります。
全国の青年会議所の総合調整機関である日本青年会議所を下支えし、成功事例を横浜から発信することで横浜経済だけでなく、全国の地域経済の成長・発展につなげます。また、国際青年会議所との連携を通して横浜市が政策として掲げている「世界とともに成長する横浜」の実現に向け活動して参ります。
社会から共感を得るために、今の私たちに必要なのは、横浜青年会議所の活動に対して、マーケティング要素を取り入れることです。社会における私たちの立ち位置をより鮮明にし、成果に焦点を当て、厳しいガバナンスを保ちつつ、活動を行うことが組織としての在り方です。地域から信頼され続けてきた組織を、バックキャスティングの思考をもって運営する必要があります。
私たちが気づいていない横浜青年会議所の社会的価値は、対外発信から得られる反響で測ることができます。これからは、反響に対して私たちの在り方を変えるのではなく、反響を検証し、発信方法を変えていくマーケティングに注力していくべきです。特にメンバーシップ推進に関わるマーケティングの知見は多くありません。実践と検証を繰り返し、マーケティング戦略を確立し、メンバーシップ推進における数的な成果をあげて参ります。
これまで横浜青年会議所は、厳しいガバナンス下で社会にインパクトを与えるべく、事業を構築してきました。昨今、よく耳にするESGは、2006年に国連が「責任投資原則(PRI)」を発表したことをきっかけに、日本においても広まりました。国連においてもガバナンスは環境、社会と同列に重要とされております。ルールを明確にし、組織のガバナンスを保つことこそ、社会的な信頼につながると認識し、組織運営を行って参ります。
豊かなまちに発展した横浜において、社会課題を定義することは非常に難しくなりました。しかし、そのなかでも、私たちは成果を残し続け、時代に即した組織のガバナンスを保つ姿勢をとらなければなりません。社会的インパクトの創出とガバナンスの強化においてトレードオンとなる選択をすることが、組織やまちに調和をもたらすと確信しております。
横浜青年会議所の目的を理解し、一人ひとりの目的が明確になった時、初めて私たちは組織の軌跡を理解し、先輩諸兄姉の想いをのせ事業として表現することが可能となります。その事業を通して運動を起こし、社会にインパクトを与えながら、組織のガバナンスを強化する調和された組織運営ができてこそ、想いをつなげる組織としてあり続けられるのではないでしょうか。
青年だからこそ、大胆な政策を掲げ、大胆な行動をもって実現することができます。
青年だからこそ、常に民間主導で規制緩和を試み、成果を創出することができます。
青年でなければ、創れない未来があります。
挑戦する前から無理だと決めつける先入観を捨て、人に語りたくなる社会を目指し、未来を生きる世代の笑顔を想い、今、私たちが考えられる大胆な政策を実行して参ります。
一般社団法人横浜青年会議所
第71代 理事長 崔 成基